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歯学部3年次編入について | いとう歯科診療室

2025/09/15

新潟市西区 歯周病専門医 いとう歯科診療室のホームページをご覧頂きありがとうございます。

今日は「歯学部3年次編入について」です。 歯学部3年次編入を考えている人に向けた記事になるので、かなり少数に向けた記事になりますね。しかも、伝えたいことがたくさんあるので、かなり長文です。

私はこの3年次編入制度を使って新潟大学歯学部に編入しました。

東京の某国立大学農学部を卒業し、大学院へ進学、修士課程を修了し、一部上場企業へ就職しました。 時は就職氷河期真っ只中。文系私立大学を卒業した友人は100社受けていました。
それでもなかなか内定がもらえない、そんな時代です。今では考えられないかもしれません。

実際、就職活動で精神的に追い詰められる学生も多数いました。

就職活動って、獲得点数で合否が判定される試験とは違い、何が原因で内定がもらえないのかわからないので、ストレスがたまっていきます。
理系も就職活動は大変でしたが、文系はさらに苦労していたのを経験しているので、
理系と文系に迷ったら、やはり理系が良いと思います。

今は人手不足だからそれほど変わらないのかもしれないけど。

それでも私が入社した会社の倍率はエントリーシートから計算すると、500倍だったと入社後、人事課から聞きました。
当時、両親もことさら喜び、これで息子の将来も安心、ホッとしたのも束の間、突然、歯学部に編入すると言い出したので、両親、兄から猛反対に遭いました。

なぜ、大企業を辞めて、歯学部に編入したいと思ったか、詳しくは触れませんが、優秀な同期たちに囲まれ、何十年も会社で働くイメージができなかった、ということでしょうか。
今となっては少し判断が性急だったかなと思います。
私の入社した会社は本当に良い会社でした。

さて、なぜ両親、親族が猛反対したのでしょう? 大企業とはいえサラリーマンと歯医者、どっちが職業として良いのでしょうか? 職業としてどっちが良いか、それは自分次第なので、答えはでないでしょう。

今から20年前、その当時から歯科医師はワーキングプア、歯科医師余剰、淘汰の時代、と世間では言われていました。
なので、両親や親族は私の将来を危ぶみ、安定した会社員からの転身に反対したのだと思います。

でも、当時の私は「自分はやっていける!必ず成功できる!」と盲信しておりました。

歯科医療がどのようなシステムのうえに成り立っているのか? 国民皆保険とは? 他の先進国との違いとは?など、もちろん知らずに・・・。

今、会社員に漠然と不安を感じている方、勤めている会社や境遇に満足できず、手に職を付けて、歯科医院という一国一城の主になって、思い通りに働いてみたい、歯学部に編入したい、と思っている方に、少しでも参考になればと思います。

では早速、歯学部3年次編入について、私見ではありますが、思っていることを列挙していきます。

・年齢の問題、編入時に30歳がギリギリ、できれば20代。

歯科医師の仕事は非常に細かい作業で、体力も気力も使う職業です。特に目が見えなくなります(老眼で)。
今はルーペとか顕微鏡とかもありますが、スキルアップ、体力の衰えなどを考慮すると、できるだけ若いうちに歯科医師になった方が良いということです。
あと、歯学部は他の学部に比べると単位取得がシビアなので、脳が若くないと大学卒業、国家試験で苦労します。
40代後半で編入してきて、歯科医師になる以前の学部の単位取得、国家試験で非常に苦労する方をみてきました。
これらの試験をパスしていかないと、歯科医師として舞台に立つことすらできません。

・歯科医師になってやりたいことが明確であるか
なんとなく歯科医師になったら成功するだろう、みたいな感じだと後悔します。
何をもって成功と判断するのか、難しいですが、優秀な歯科医師としてまっとうな仕事をしていくには、自分の将来像をイメージできる明確な意思、よいメンター(指導医)、良い環境(じっくり診療、勉強できる環境)が大事です。 それは自分の情熱がそういう環境を引き寄せます。
なんとなく過ごしていると、保険診療で安い、悪い、早い診療ばかり身につき、心身ともに疲弊します。

例えば、矯正医になる!とか歯周病専門医になって自費で治療する!とかエンド専門医になる!とか明確な目標を早く定めた方がいいですね、周囲の学生より年をとってるので、最短で目標にたどり着けるような努力が必要だと思います。

・日本の医療制度を知るべし

これは別の回で詳しく述べたいと思っていますが、日本の診療報酬は、海外の先進諸国と比べると絶望的に低いのです。
日本の保険制度に属さず、自費診療で高度な医療を提供するという目標がすでにあるのであれば、関係ありませんが、それはそれで非常にスキルが求められる道です。
ほとんどの歯科医師が日本の保険制度に属した保険医です。
どんなに丁寧に診療しても報酬は変わりません、患者さんが納得するまで丁寧に説明しても、それは診療報酬として認められません。
今、若い医師が修行の期間を設けずに、美容外科に走ってしまう。いわゆる「直美」が問題になっていますが、これは医師の問題ではなく、構造の問題だと思っています。
低廉な診療報酬で、朝から晩まで病院で働き、宿直もある。 今までは矜持とかやりがいでなんとか保っていたものが、崩壊しつつあるのだと思います。
日本は特にエッセンシャルワーカーに対する「やりがい搾取」が顕著な国だと思います。

1つだけ例を挙げましょう。日本では臼歯の普通抜歯に対する技術料は2,700円ですが、米国では40,000円です。 どうですか? 米国の歯科医師が日本の診療報酬を聞くと、腰を抜かします。
もっと色々調べてみると面白いと思いますよ。

つまり、日本の保険制度は統制経済で自由経済ではありません。自分で値段設定ができず、国の統制下にあります。 この統制下の元、国民はどこでも、安価で治療を受けることができます。 それは患者さんにとって、この制度の最大のメリットです。
この先進国では良い意味でも、悪い意味でも稀にみる保険制度の下、どうやって生き抜いていくかは、 医療人として非常に難しい問題です。

今の医療現場をみると、インフレ、働き方改革が進むなか、保険制度の悪い面が際立ってきて、医科では病院経営の赤字化、看護師の離職、医師の偏在、直美問題などが、歯科では歯科技工士の絶望的な減少、歯科衛生士の離職率増加、歯科材料店の減少などが生じているのだと思います。

・実家が資産家か?
歯科医師はそのほとんどが開業します。もし、歯学部に編入して大学に残って教授を目指したい、とか研究者になりたいと思っている方には関係の無い話です。それはそれで良い道だと思います。
しかし、あなたが編入して歯科医師として独立したいと思っているのであれば、経済状況というのは無視できません。

ざっくりですが、テナント開業では5,000万円ほど、戸建て開業だと1億円ほどかかります。 ですから、たとえば親が土地やビルを持っていて、開業地はすでにあるとか、今盛業である親の医院を引き継ぐ、とか親が資産家で開業時には数千万の資金援助が得られる予定とかあるのであれば、あなたの編入後の道は明るいかもしれません。

開業のコストを下げるために、居抜き開業とかもありますが、これはこれで気をつける点が多数あります。特に開業地の選定などには気をつけて、失敗しないようにしなければなりません。

・最後に
歯科医師に転身する際は、あれだけ猛反対だった両親、親族は今では心から応援してくれています。
それは365日の食事、話すこと、審美にとても重要な役割を果たす歯科医師という職業をとても大事な仕事だと実感してくれているからです。
今では「歯科医師という仕事は、健康のインフラの一つで、とでも大事な仕事だ。」と言ってくれます。

歯科医師に転身したいとカミングアウトしてから20年、両親も兄も少なからず歯のことで歯科医師の世話になり、 その重要性を実感したのでしょう。

歯科医師は大変で、そして重要な仕事だと思います。歯科医師になりたいという純粋な思いを持った方が、まだ書ききれないけど、歯科医療の実情を理解した上で、それでも飛び込んでくることを願っています。