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神経を残せるむし歯、残せないむし歯
― 世界基準の根管治療を学ぶ中で感じること ―

2026/05/28




「できるだけ神経を残したいです」

むし歯治療の相談で、患者さんからよく聞く言葉です。

もちろん、私たち歯科医師も、可能であれば歯の神経(歯髄)は残したいと考えています。

なぜなら、神経には単に「痛みを感じる」だけではない、大切な役割があるからです。

歯に栄養を届ける。
異常を知らせる。
歯の強度を保つ。

神経を残せるか否かは、その後の歯の寿命にも大きく関わってきます。

一方で、無理に神経を残そうとすることで、後から大きな炎症や再治療につながるケースもあります。

つまり大切なのは、「神経を残すこと」そのものではなく、長期的に安定する状態をつくれるかなのです。


むし歯は少しずつ歯の内部へ進行していきます

むし歯は、お口の中の細菌(むし歯菌)が糖を分解して作り出す「酸」によって歯が溶かされる病気です。

初期段階では歯の表面だけの変化ですが、進行すると内部の象牙質、さらに歯の神経へと広がっていきます。

 

一般的には、

  • C1:表面のむし歯
  • C2:象牙質まで進行
  • C3:神経まで進行
  • C4:歯の根まで大きく崩壊

という分類が行われます。

神経を残せるかどうかは、この「感染の広がり方」が大きく関係しています。


神経を残せる可能性があるケースとは

例えば、

むし歯は大きいが、全く症状がない場合は、神経を残せる可能性が高いです。

  • 冷たいものがしみる
  • 甘いものがしみる
  • ただし刺激を外すと数秒で落ち着く

このような段階であれば、神経を残せる可能性が高くはないが、あります。

一方で、

  • 何もしなくてもズキズキ痛む
  • 痛くて咬めない
  • 夜眠れない
  • 痛み止めが効きにくい

こうした状態では、神経の炎症が強く、神経を残せる可能性はほぼないでしょう。

ただし、これはあくまで目安です。

実際にはレントゲンやマイクロスコープでの確認、症状、むし歯の深さ、歯の状態などを総合的に診断して判断していきます。


歯髄まで進行しても神経を残せる場合があります

以前は、「神経まで達したむし歯=神経を取る」という考え方が一般的でした。

しかし現在では、条件が整えば、神経を保存できる可能性があります。

その際に使用される代表的な材料が「MTAセメント」「バイオセラミックパテ」です。

MTAやバイオセラミックパテは殺菌性と封鎖性に優れた材料で、神経を保護しながら回復を促す目的で使用されます。

場合によっては炎症が起きている神経を部分的に切断・除去し、炎症の起きてない神経を保存する断髄という方法もあります。

ただし、どんなケースでも神経を残せるわけではありません。

感染、炎症の程度や細菌のコントロール状態によっては、無理に残すことで後から大きなトラブルにつながることもあります。

そのため、診断が非常に重要になります。

残念ながら神経を残すことができずに、いわゆる神経をとると表現されることが多いですが、根管治療へ移行することもあります。



世界基準の根管治療では「感染管理」を重視します

当院では、近年、世界基準の歯内療法(根管治療)の導入を進めています。

マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)、Ni-Tiロータリーファイル、ラバーダム防湿、バイオセラミックシーラーなどを使用し、細菌感染をできる限りコントロールしながら治療を行っています。

根管治療は、単に「神経を取る処置」ではありません。

どれだけ細菌を減らせるか。
どれだけ再感染を防げるか。

そこが治療結果を大きく左右します。

特にラバーダム防湿は必須です。

唾液の中には多くの細菌が存在しています。治療中に唾液が入り込めば、せっかく内部をきれいにしても再感染の原因になってしまいます。

世界基準の根管治療では、この感染管理を徹底する考え方が基本となっています。


神経を失った歯にはリスクもあります

神経を取った歯は、痛みを感じなくなるため、再発したむし歯に気付きにくくなります。

また、根管治療では歯の内部を広げる処置が必要になるため、歯そのものがもろくなる傾向があります。

その結果、歯根破折(歯の根が割れること)を起こし、抜歯に至るケースも少なくありません。
特にむし歯が歯の内部まで進行している場合、歯ぐきの上に健全な歯が残っていない場合は、歯根破折を起こしやすくなります。

世界基準での根管治療では、なるべく将来、歯根破折が生じないよう配慮して治療をしています。

可能であれば神経は残したい。それは術者、患者さん、双方の願いと思います。

しかし、感染が進行しているにも関わらず無理に保存することは、かえって歯の寿命を縮めてしまう場合もあります。

大切なのは、「神経を残すこと」だけを目的にしないことです。


本当に大切なのは「根管治療が必要になる前」に守ること

実際には、「神経を残すか、取るか」という段階まで進行しないことが理想です。

そのためには、

  • 定期的なメインテナンス
  • 初期むし歯の早期発見
  • リスク管理
  • 清掃環境の改善
  • 噛み合わせの確認

こうした日常的な管理がとても重要になります。

高度な根管治療は、歯を残すための大切な選択肢です。

しかし、本当に大切なのは、「根管治療が必要になる前に守ること」。

それが、予防歯科の本質だと、私たちは考えています。


参考文献・参考資料

  • 日本歯科保存学会「歯髄保護の診療ガイドライン」
  • 日本歯内療法学会
  • 九州大学「歯内治療ってなに?」
  • MTAセメント関連文献
  • 歯内療法に関する国際的ガイドライン

>>世界基準の根管治療を目指して